宅録で悩まされがちな「サーッ」という環境ノイズ
歌ってみたの録音を自宅で行う際、録音したボーカルトラックをヘッドホンでよく聴いてみると、「サーッ」というパソコンのファン音や、遠くの生活音が薄く混ざってしまっていることがあります。
こうした環境ノイズは、後からソフトで除去することも可能ですが、ノイズを強く削りすぎるとボーカル本来の艶や高域の伸びまで一緒に失われてしまいます。MIX師に渡す段階で、できる限りクリアな原音を用意しておくことが、完成度の高い作品に仕上げるための大切なポイントです。
今回は、機材を買い替えなくても実践できる「マイクの指向性を意識した配置」と「室内レイアウトの工夫」に絞って、ノイズを最小限に抑える方法を詳しく解説します。
マイクの「死角」を理解してPCとマイクを配置する
歌ってみたの録音で使われる多くのコンデンサーマイクやダイナミックマイクは、「単一指向性(カーディオイド)」という性質を持っています。これは、正面からの音を最も強く拾い、背面(真後ろ)からの音をもっとも拾いにくいという特徴です。
このマイクの「音を拾いにくい角度」をノイズ源に向けることが、配置の基本になります。
1. マイクの真後ろにパソコンの本体を置く
多くの宅録環境では、歌詞や録音ソフト(DAW)を確認するために、パソコン画面の正面に立って歌う配置になりがちです。このとき、ノートパソコンやデスクトップPCの本体がマイクの正面や斜め前にあると、ファンの回転音をダイレクトに拾ってしまいます。
ノイズを減らすための配置手順は次のとおりです。
- マイクの正面(音を拾う側)を歌う自分に向ける。
- マイクの真後ろ(お尻側)の延長線上にパソコンの本体が来るように配置する。
- ノートパソコンの場合は、マイクの背面側に画面を開いて置くか、可能であれば少し横へずらして視線だけを向ける。
マイクの背面はもっとも感度が低いため、この配置にするだけでファンノイズの混入を大きく軽減できます。
2. パソコン本体とマイクの物理的な距離をとる
指向性を活用することに加えて、「音源からの距離」もノイズ対策には重要です。音の大きさは距離が離れるほど急激に小さくなります。
- パソコン本体(特にファンの排気口)からマイクまでは、可能な限り距離をとる。
- 歌詞の確認用にはスマートフォンの画面や譜面台を使い、PC本体は少し離れた足元や机の端に置く。
机の上にマイクスタンドとノートPCを並べて置くスタイルは、ファン音やタイピング時の振動を拾いやすいため、できる限り独立したマイクスタンドを使ってPCから離すことをおすすめします。
壁や机からの「跳ね返り音」を身近な布で防ぐ
マイクの背面にPCを配置しても、PCのファン音が部屋の壁や硬い机に反射して、マイクの正面に入り込んでしまうことがあります。これが「反射によるノイズ混入」です。
この反射音を防ぐには、家にある身近な布製品が役立ちます。
マイクとPCの間、壁際に対策をする
大掛かりな防音工事を行わなくても、音が跳ね返りやすいポイントに吸音効果のあるものを置くだけでノイズは減らせます。
- 机の天板の上:パソコンを置いている机の表面に厚手のタオルやブランケットを敷くと、机の反射を防げます。
- PCの背後の壁:パソコンのファンの風が当たる壁面に厚手のカーテンやクッションを配置し、音が部屋全体に跳ね返るのを抑えます。
- 歌い手の背中側:歌い手の背中側にクローゼット(服がたくさんかかっている状態)を開けておくか、毛布を吊るしておくと、自分の声や室内のノイズの跳ね返りを吸収してくれます。
床や机から伝わる「振動ノイズ」の遮断
環境ノイズのなかには、空気中を伝わる音だけでなく、机や床を伝わってマイクに届く「低音の振動ノイズ(ブーンという唸りや足音)」もあります。
マイクスタンドの足元にマットを敷く
卓上スタンドを使っている場合、PCファンの微小な振動や、歌唱中に机に触れたときの振動がスタンドを通じてマイクカプセルに届いてしまいます。
- 卓上スタンドの下に、厚手のマウスパッドやコルクコースターを敷く。
- 床置きのブームスタンドを使う場合も、スタンドの脚の下にラグやジョイントマットを敷く。
- マイクを固定する際は、振動を吸収するショックマウント(ゴムで浮かせたホルダー)を正しく装着する。
これだけで、録音データに含まれる不要な低音の濁りを防ぐことができます。
MIXで生きる「扱いやすいボーカルデータ」のために
ボカロ曲の「歌ってみた」は、オケの音数が多く繊細なミックスが行われることが多いため、ボーカル素材のクリアさが全体の抜けや迫力に直結します。
録音を始める前には、以下のチェックを習慣にしてみてください。
- マイクの背面がPC本体を向いているか
- PCとマイクの距離が十分に取れているか
- 机の上やスタンドの足元に振動を防ぐ敷物があるか
- テスト録音の無音部分をヘッドホンで聴き、気になるノイズがないか
機材を新調しなくても、位置関係や角度を少し見直すだけで、録音の質感はぐっと良くなります。ぜひ次回の録音時に試してみてください。