はじめに:ボカロ文化にあふれる独特の用語たち
ボカロ曲や歌ってみた動画を視聴していると、動画のタイトルや概要欄、SNSの投稿などで独特の言葉をよく目にします。「本家」「ワンコーラス」「off vocal」など、なんとなく意味は察せられても、正確なニュアンスや使われ方の背景までは詳しく知らないという方もいるのではないでしょうか。
ボカロ・歌ってみた文化は、一次創作であるボカロ曲を起点として、歌唱やイラスト、動画制作といった二次創作が連鎖していく「派生(UGC)文化」です。そのため、使われる用語の多くは「どの作品が元になっているか」「どのような形式で作られているか」を分かりやすく伝えるために定着してきました。
この記事では、リスナーとして動画をより楽しみたい方や、これから投稿を考えている方に向けて、特によく見かける基本的な用語の意味と背景を分かりやすく解説します。
1. 楽曲や作品の立ち位置を表す用語
まずは、投稿された動画がどのような位置づけで作られたのかを示す用語です。
本家(ほんけ)
ボカロPが制作・公開した「原曲」の動画や、その制作者自身を指す言葉です。歌ってみた動画の概要欄には、必ずと言っていいほど「本家様」として原曲のURLやボカロPの名前が記載されます。二次創作を楽しむにあたり、元となった作品と制作者へ敬意(リスペクト)を払う文化から生まれた呼び方です。
カバー / 歌ってみた
ボカロ曲をはじめとする既存の楽曲を、自身で歌い直して公開した作品のことです。「カバー」と「歌ってみた」はほぼ同義ですが、ボカロ文化圏では伝統的に「歌ってみた」という表現が広く親しまれています。
コラボ / 合唱
複数の歌い手やクリエイターが協力して制作した作品を指します。
- コラボ: 2人以上でお互いのパートを歌い分けたり、ハモリを重ねたりして1つの作品を作ること。
- 合唱: 3人以上の多人数で歌う作品や、過去に別々に投稿された複数の歌ってみた音源を有志の動画制作者が1つにまとめて構成した動画を指すことがあります。
2. 曲の長さやバージョンを表す用語
SNSへのショート動画投稿や、配信サイトでのプレビューでよく使われる用語です。
ワンコーラス(1C / Short Ver.)
楽曲の最初から1番のサビ終わりまでを指します。SNSでは短い動画の手軽な視聴が好まれるため、フルサイズではなくワンコーラスのみを歌って投稿するクリエイターも多くいます。曲全体の魅力を手短に知りたいときに適した形式です。
フル(Full Ver.)
原曲の最初から最後まで、すべての構成を含んだ状態のことです。ボカロ曲はラスサビ(最後のサビ)で転調したり、間奏に特徴的なソロが入ったりすることが多いため、曲本来のドラマチックな展開を味わいたいときはフル動画の視聴がおすすめです。
キー変更(+2、-3 など)
原曲の音の高さを、歌う人の声域(音域)に合わせて上下させることです。「原曲キー」が最も標準的ですが、男性が女性ボーカル曲を歌う際や、その逆の場合に「キーを3つ下げる(-3)」といった調整が行われます。歌い手の魅力が最も引き立つ高さで聴ける良さがあります。
アレンジ / Remix
原曲のテンポや伴奏のコード進行、ジャンル(ジャズ風、ロック風、アコースティック風など)を変えて演奏・制作された音源のことです。歌い手がオリジナルのアレンジ音源を用意して歌うことで、原曲とは違った雰囲気を楽しむことができます。
3. 音源や素材に関連する用語
歌ってみたの概要欄や、ボカロPが配布しているデータでよく見かける用語です。
off vocal(インスト / 伴奏音源)
ボーカル(歌声)が入っていない、伴奏だけの音源のことです。「インスト(インストゥルメンタル)」「カラオケ音源」とも呼ばれます。多くのボカロPは、自身の楽曲を歌ってもらえるよう、動画の概要欄や専用の配布サイトでoff vocal音源を公開しています。
ガイドメロディ(ガイドメロあり / なし)
伴奏の中に、歌うべき主旋律(メロディライン)がシンセサイザーなどの音で小さく入っているものを「ガイドメロあり」、伴奏楽器の音のみのものを「ガイドメロなし」と呼びます。練習時はガイドメロがあると音程を把握しやすく、本番の録音ではガイドメロなしの音源を使うのが一般的です。
4. 用語の背景にある「ボカロ文化のマナー」
これらの用語を理解しておくと、動画を視聴・共有する際のマナーにも自然と配慮できるようになります。
- 本家動画への配慮: 歌ってみたを聴いて原曲を知った場合でも、本家の動画コメント欄で「〇〇さんの歌ってみたから来ました」と特定の歌い手の名前だけを過剰に強調することは避け、原曲そのものへの感想や応援を届けることが好まれます。
- クレジットの確認: 概要欄に記載された「本家」「MIX」「動画」などの名前を見ることで、その作品がどのようなクリエイターたちの手によって形作られたのかを知ることができます。お気に入りの動画を見つけたら、概要欄から本家やクリエイターの作品を巡ってみるのもボカロの醍醐味です。
まとめ
ボカロ・歌ってみたの用語は、作品同士のつながりや、制作に関わった人々へのリスペクトを表すための大切な言葉です。
言葉の意味が分かると、動画タイトルを見ただけで「どのような意図で投稿されたのか」が想像できるようになり、作品探しが一段と楽しくなります。気になる言葉を見かけたらぜひその背景にも目を向けてみてください。