なぜ歌ってみたの表記には「決まった型」があるのか
ボカロ曲をカバーして投稿する際、動画のタイトルや概要欄(説明文)の書き方に迷ったことはないでしょうか。
動画投稿サイトを見渡すと、多くの「歌ってみた」動画が似たようなタイトル付けや概要欄の構成を採用しています。これは単なる流行ではなく、ボカロ文化が長年かけて培ってきた「原曲制作者(本家)への敬意」と「制作に関わった仲間への感謝」を明確に示すための暗黙のルールです。
原曲を作ったボカロP、魅力的なオケや調声、イラスト、そして自身の歌唱を支えてくれたMIX師や絵師など、ひとつの動画には多くのクリエイターの力が関わっています。適切なクレジット表記の作法を身につけることは、トラブルを防ぐだけでなく、関わってくれたすべての人と良好な関係を築くための第一歩です。
タイトル付けの基本:検索性と本家リスペクトの両立
歌ってみた動画のタイトルは、リスナーが動画を見つける目印であると同時に、本家の権利を尊重する意思表示でもあります。
定番のフォーマット
動画タイトルには、主に以下のような形式が使われます。
【歌ってみた】曲名 / 歌い手名曲名 / ボカロP名 (Covered by 歌い手名)曲名 - ボカロP名 covered by 歌い手名
最も大切なのは、**「これがカバー作品であること」と「原曲のタイトル」「ボカロP名」**がリスナーに一目で伝わることです。
検索妨害(サジェスト汚染)への配慮
タイトルに「本家」という単語を入れてしまうと、原曲を探しているリスナーが誤って二次創作動画を開いてしまう原因になります。「本家様」という言葉は概要欄でのみ使用し、タイトルには「歌ってみた」または「Cover / Covered by」と明記して、原曲と二次創作の区別が明確につくようにするのが文化的なマナーです。
また、原曲の知名度にあやかるために過剰なキーワードを詰め込むようなタイトル付けは避け、シンプルで清潔感のある表記を心がけましょう。
概要欄に並ぶ専門用語の役割と記載順
概要欄のクレジット欄は、大きく分けて「本家(原曲)情報」と「今回の制作陣情報」の2つのブロックで構成します。基本の順番は、必ず本家情報を最上部に置くことです。
■ 本家様
曲名 / ボカロP名
動画URL(本家動画のリンク)
Music & Lyrics:○○様(リンク)
Illust:○○様(リンク)
Movie:○○様(リンク)
■ Cover Credit
Vocal:あなたの活動名(リンク)
Mix:○○様(リンク)
Illust:○○様(リンク)
Movie:○○様(リンク)
それぞれの項目で使われる用語の意味と役割を整理しておきましょう。
1. 本家情報の用語
- 本家 / Original:原曲を指すボカロ文化特有の呼称です。敬意を込めて「本家様」と記載するのが通例です。
- Music / Lyrics / Arrange:作詞・作曲・編曲の担当者です。ボカロPがすべて一人で手掛けている場合もあれば、分業されている場合もあります。本家の概要欄の記載をそのまま写すのが基本です。
- inst / off vocal:歌が入っていない伴奏音源のことです。ボカロPが配布している音源ページへのリンクを添える場合もあります。
2. カバー制作陣の用語
- Vocal:歌唱を担当した人の名前です。
- Mix / Mastering:録音したボーカル音源の音量バランスやピッチを整え、オケと馴染ませる作業(MIX)、そして最終的な音圧や音質を整える作業(マスタリング)を担当した人です。兼任されることが多いですが、分業の場合は分けて記載します。
- Illust / Movie:描き下ろしイラストを描いた絵師、動画を制作した動画師の名前です。
- Encode:完成した動画をサイト投稿に適した形式に出力・調整した担当者です。現在は投稿サイトの自動変換が発達したため省略されることも増えましたが、専門のエンコード師に依頼した場合は記載します。
クレジット記載時に絶対に外せない確認事項
クレジット欄を書く際、思い込みで記載すると制作陣に失礼にあたる場合があります。投稿前に必ず以下の点を確認してください。
表記名とリンク先の事前確認
MIX師や絵師に依頼した際は、納品時や投稿直前に「概要欄にはどのお名前とリンク(SNSアカウントやポートフォリオ等)を記載すればよろしいでしょうか?」と必ず確認を取りましょう。 名義の表記揺れ(ひらがな、英語、大文字小文字など)や、掲載を希望するアカウントのURLは人によって異なります。別名義で活動している場合もあるため、勝手に判断しないことが大切です。
本家動画のリンクを正しく貼る
概要欄で最も重要なリンクは原曲への導線です。URLが途中で切れていないか、クリックして正しい動画に飛べるかを投稿後に必ず確認してください。 ボカロPによっては「二次創作を投稿する際は、特定のハッシュタグや親作品登録を行ってください」と規約に明記している場合があります。動画を公開する前に、原曲の配布ページや利用規約をいま一度見直す習慣をつけましょう。
プラットフォーム固有の連鎖の仕組みを使う
動画サイトによっては、原曲動画を「親作品」として登録するツリー機能が備わっています。これを行うことで、原曲の制作者へ二次創作が作られたことが通知され、原曲を起点とした創作の輪が可視化されます。概要欄にテキストで書くだけでなく、サイトの機能を正しく使うことも暗黙のマナーのひとつです。
丁寧なクレジットが次の制作へつながる
概要欄のクレジットは、動画を見ているリスナーに対して制作の背景を伝えるだけでなく、関わってくれたクリエイターへの「実績の証明」でもあります。
MIX師や絵師は、あなたが投稿した動画のクレジットを通じて新しい依頼やリスナーと出会うことがあります。クレジットを丁寧に整えることは、素晴らしい作品作りに協力してくれた制作陣に対する、一番身近で誠実な恩返しになります。
文化への敬意と制作者への感謝を込めて、ひとつひとつの文字を丁寧に整えてから投稿ボタンを押しましょう。